ヒトラーの防具

ヒトラーの防具(上) (新潮文庫)

ヒトラーの防具(上) (新潮文庫)

ヒトラーの防具(下) (新潮文庫)

ヒトラーの防具(下) (新潮文庫)

第2次大戦下のドイツを、ベルリンに駐在した日本人(とドイツ人のハーフ)の目を通して語る歴史小説

油断するとノンフィクションなのではないかと間違えそうな詳細な史実の記述によって、フィクションの存在である「サムライ」的な主人公の生き様もまた事実であったのではないかと錯覚させる優れた作品だと思います。

個人的に言えば少々勧善懲悪的傾向が強すぎる気がするのと、ラブストーリーの部分が若干安易に感じられはしました。しかしそれを補って余りあるのが、スーパーマンになりすぎずに等身大の人間としての良心を貫く主人公のあり方に対する共感。タイトルの由来が明かされる前後の葛藤と、そこから導かれる結論もかなり納得です。


余談ですが、元々は「総統の防具」というタイトルだったそうです。本書の趣旨から言えば、「ヒトラー」という現代の視点からの呼び方よりは、当時のドイツの視点に立った「総統」の方がふさわしいのではないでしょうか。

もちろん「ヒトラー」の方がよりキャッチーなので、多くの人にこの良書をお届けするという点では優れていることは疑いようがありませんけどね…。